声優さんの中には、舞台やドラマなどマルチの分野でも活躍している方もいます。
ちょっと前にはマルチ声優という言葉もあったくらいです。
今声優を志望している方の中で、舞台俳優としてもやっていきたい!と考えている方もいるでしょう。
声優の仕事と舞台の仕事は両立できるのでしょうか。
舞台俳優と声優の関係
【1】声優は俳優の卵だった
声優という職業は、もともとは俳優の卵が練習の目的で始まったものです。
昔は俳優というと、舞台俳優のことを言うものでした。
俳優になるには、文学座や俳優座などの有名劇団で演技を習得しなければなりませんでした。
舞台だけでは生活できないため、ギャラがもらえるTVに出るようになり、TV俳優となったのがメディアへの進出の始まりです。
さらに、TVドラマだけではなく、練習の一環としてアニメの声や人形劇などの声をあてることも仕事になりました。
これが声優の始まりです。
【2】舞台俳優だけでは生活ができない
日本で有名な劇団というと、今では「文学座」「俳優座」「青年座」「宝塚歌劇団」「劇団四季」が有名どころです。
しかし、日本の劇団の中で黒字になっている劇団は劇団四季だけだと言われています。
舞台を観に行くという慣習は、TVやインターネットなどのメディアによってなくなりつつあります。
そのため、観劇をする際のチケット代金はどんどん値上げするしかありません。
宝塚歌劇団の公演を観るなら、2万円くらいはかかりますし、劇団四季でもいい席を取ると1万円はします。
大手劇団の場合はギャラがある程度出ているかと思います。
しかし、その他の劇団では、出演している俳優さんにギャラを約束されているわけでないことも多く、チケットノルマがあることも少なくありません。
そのため、舞台俳優だけでは生活はできないのです。
【3】俳優から声優のパターンもある
声優という職業が世の中に知られるようになったのは、平成に入ってからが顕著です。
以前は、声優から俳優へというルートが主でした。
声優をやっていたということを隠す俳優さんもいたくらいです。
しかし、時代の変化とともに、声優という職業が俳優と区別されるように広まり、声優志望者も多くなってきました。
声優専用の事務所もどんどん増え、もともとTVに出ていた俳優さんの知名度での視聴率を稼ぐために俳優さんも起用され始めました。
TVはスポンサーがいて、そのスポンサーから製作費が出ています。
アニメの間に放送されるCMはスポンサーのものですね。
スポンサーとしては、自社の商品のCMをたくさん見て、その商品を買ってほしいわけです。
視聴率はそのアニメに非常に大きな影響力があります。
視聴率が低いアニメが打ち切りになってしまうことも珍しくありません。
ココがポイント
知名度が高い人を出して、ファンに見てもらうという方法が視聴率を上げる有効な方法なので、俳優さんや芸人さんも起用することが多くなってきました。
声優と舞台俳優は両立できる?
【1】声優として生活できるなら両立可能
話しは戻りますが、声優と舞台俳優が両立できるのか?という質問がよくあります。
筆者も舞台俳優としてやっていきたいと思っていた時期もありましたので、よくわかります。
しかし、先に書きましたように、舞台だけで生活はできません。
舞台俳優として生活するのであれば、劇団四季などの大手劇団に入るしかないのです。
ほとんど休みなしで大手劇団の稽古があるような生活では、声優の仕事をするのはほぼ無理ということです。
では、逆の発想をしてみましょう。
声優として生活ができるようになっている状態なら、舞台俳優としても活躍できる可能性があります。
ただし、劇団はそれぞれのルールや入団条件などもあるので、受け入れができる劇団である必要があります。
また、劇団では伝統を重んじる人も多く、どうしても「声優」は「俳優の卵」という概念で見られてしまう部分もありますので、大手劇団は受け入れてくれない可能性が高いです。
【2】二兎を追う者は一兎をも得ず
声優と舞台俳優を両立させたいのであれば、まず声優としての成功を掴むようにしましょう。
舞台俳優になるのが難しいとは言え、実際にできている人もいますので、可能性はゼロではありません。
ココに注意
しかし、「二兎を追う者は一兎をも得ず」なので、どっちつかずでやっても、どちらも失敗する可能性が高いです。
まずは、生活の基盤となる声優という地位を確立し、いろいろな劇団の客演(ゲスト出演のようなもの)に呼ばれるようになれば、少しずつかもしれませんが、舞台俳優として活躍できるでしょう。
実際、声優としての演技の仕方と舞台俳優としての演技は全く違います。
その演技の違いを体で覚え、しっかりと使い分けできるようになっていれば両立も夢ではありません。
声優の演技と舞台の演技の違い
それでも、舞台にも立ってみたいと考える人もいるでしょう。
私が経験したことと、演技の世界を離れてから考えたことを元に、声優の演技と舞台の演技の違いについてご紹介します。
【1】同じ演技でも演技の質が違う
声優の演技、舞台の演技、どちらの演技も根本は同じです。
でも、異なる点もたくさんあります。
その違いが判らないまま両方を続けるのはおすすめできません。
(1)セリフのかけ方
声優は、アニメや外画の俳優さんがしゃべっていることをセリフとして発します。
自分の視点は3人称ですね。セリフは、隣にいる声優さんにかけるのではありません。
その役の視点をイメージしながら、モニターの中の相手にかけるものです。
それに比べ、舞台では視点は1人称です。
セリフも自分の視点で、目の前にいる相手にかけるものです。
(2)距離感
声優の場合、その役と話している相手をイメージしてセリフを言いますね。
例えば、隣にいるのに、よく響く声で大きく表現する人はほとんどいないでしょう。
距離も比較的近い相手と喋っているように声を出します。
舞台では、観客にも声が届くようにする必要があるので、隣にいる相手であっても、観客に届く発声が求められます。
例えば囁く演技のときは、観客に届く声の大きさをキープしつつ、体の動きは囁ように動作をするのです。
(3)技術面
声優の場合、マイクを使って演技をします。
マイクに雑音が入らないように気を配る必要があります。
リップノイズを発する、マイクを吹いてしまうなど、本来のセリフにない音はすべて「ノイズ」です。
また、身振り手振りで表現することもできないので、「声だけの表現」を幅広くしておく必要があります。
舞台の場合は、不自然なくらい大きな身振り手振りで表現することも必要です。
「相手を見る」という動作一つとっても、目だけで相手を見るだけではダメなのです。
体全体を相手に向ける、最低でも顔を向けないと「相手を見る」という動作だと観客は認識できないのです。
【2】使い分けができないと声優としては難しい
よく声優の勉強を始めたいけど、養成所に入るまでの時間で演技を少しでも学びたいと舞台に参加する人がいます。
確かに演技の根本は同じなのですが、前述したように声優と舞台の演技はまるで違います。
ココに注意
その違いがわからないまま、ずっと舞台を続けていると、声優の演技をしなければならないのに舞台の演技しかできないという状態になってしまいます。
声優の演技と舞台の演技は、特に技術面で異なるので、その使い分けができないと声優として成功することは難しいでしょう。
【3】舞台と声優を追った経験談
私は声優になる前に地元福岡の大学で舞台経験があり、声優の勉強を始めてから、劇団にも入り、将来的には両立したいと意気込んでいました。
ところが、声優の養成所でのダメ出し内容が「舞台演技」だと言われるようになりました。
「その芝居は、舞台でしか通用しない」と言われてしまったのです。
声優と舞台の演技の違いを理解できず、舞台を長く続けたため、セリフのかけ方、距離感、技術面で声優から遠ざかっていたことにその時は気が付いていませんでした。
事務所に所属する直前に、劇団は辞めてしまったのですが、事務所に入ってからも舞台の演技と声優の演技の違いが判らず、大きな壁となってしまいました。
舞台でも活躍する声優さんたち
【1】戸田恵子
アンパンマンの声で有名な戸田恵子さんですが、実は声優デビューが最初ではありません。
知らない方も多いのですが、戸田恵子さんは、実は歌手だったのです。
また、現在でもドラマや舞台にも出演し、売れっ子の女優さんです。
もちろん、アンパンマンやきかんしゃトーマスの声として、大ベテランの声優さんとしても活躍しています。
歌手、劇団と多種多様の勉強をされてきているため、声量は半端ありません。
よく新人声優さんの中には、マイクがあるから、と声量がない方もいます。
戸田恵子さんは、実物は小柄で細身ですが、どこからこんな声が!と驚くぐらいの響く声を持っています。
舞台でその持ち前の声量と演技力を生かし、パワフルに演じている姿は、惚れ惚れしてしまいます。
声優としての戸田恵子さんも魅力的ですが、舞台での戸田恵子さんも1度は見ても損はありません。
【2】高木渉
名探偵コナンの元太くんの声を務めている高木渉さんは、大河ドラマに出演した際に、ニュースにもなりました。
実は筆者が通った勝田声優学院、また所属していた「あかぺら倶楽部」という劇団の先輩でもあります。
最近は、脚本家の三谷幸喜さんから呼ばれて、他の舞台によく出演されていました。
あかぺら倶楽部での舞台裏での話ですが、本当に純粋な方で、面白いものを見せようという熱意はものすごい方です。
舞台に出る直前まで、ああでもないこうでもないと試行錯誤を重ね、相手が後輩であっても、アドバイスを求める方です。
そういう演技へのひたむきな想いが、大河ドラマに出演するほどになったのでしょう。
高木渉さんは、最初は声優として成功し、その後俳優として大きな舞台やTVなどに出演されるようになった方です。
後輩の身からで失礼ですが、本当に努力を重ね、積み上げてきた実力派の声優さんです。
【3】入野自由
劇団四季の公演で舞台に憧れ、4歳で劇団ひまわりに入団した方です。
当時でも珍しい子供時代に声優デビューを果たしている声優さんです。
小学生のときに宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」のハク役で出演もされています。
声優としての活躍はもちろんのこと、舞台でもたくさんの作品に出演していますね。
子供時代から、業界の中で生きてきたという背景もあり、業界の厳しさは誰よりも分かっているでしょう。
現在までは、舞台の仕事よりは声優としての仕事の方が出演は多いようですが、声優として成功しているからこそ、舞台やその他TVなどにも出演できるということは間違いありません。
舞台をすることは「悪」ではない
ここまでに、舞台をやるのは声優志望者にとっておすすめしない!と言ってきましたが、舞台の経験をすることは「悪」ではありません。
【1】演技の根本は同じ
「演技をすること」は声優も舞台も変わりません。
その役の気持ちを考えて、イメージして言葉を発する。
これは声優でも舞台でも根本は同じです。
演技をすることのロジックは同じなので、基礎的な部分を勉強するだけなら声優でも舞台でも同じです。
【2】違いが分かれば問題ない
声優と舞台の演技の違いがきちんと分かっていて、使い分けができるのなら全く問題ありません。
声優の演技をするときには声優の演技の仕方を、舞台の演技をするときには舞台の演技の仕方をすればいいだけなのです。
使い分けができるようになると、どちらの場合もメリットもデメリットもあることに気づき、決められたルールの中で最大限表現するにはどうすればいいのか考えることができるようになります。
【3】舞台での演技はプロの指導を
声優志望者に限らず、舞台を目指す人にも注意していただきたいことがあります。
(1)舞台ではプロの指導は受けられないことが多い
声優の養成所では、プロの声優が教えてくれることがほとんどです。
プロの声優が教えてくれるので、間違ったことは教えません。
声優によって教え方や内容が異なる場合もあるでしょうが、形は違えど中身は同じということです。
舞台となると事情が違います。
劇団にもいろいろあり、プロ、アマが混在している世界です。
日本では舞台のプロという人はいません。
最初にも説明しましたが日本の劇団で黒字なのは「劇団四季」のみだと言われています。
「プロ」の認識もいろいろですが、舞台だけで生活している俳優はいません。
TVに出たり、声優の仕事をしたり、CMに出たりとメディアに出る人がほとんどです。
そのため、舞台のプロに指導してもらうことはほとんどないということになるのです。
(2)声優の演技の指導は受けられない
少し演技を勉強してみたいと思った人は、アマチュアの劇団に入ることを考え始めます。
アマチュアですから、当然プロではありません。
ほとんどのアマチュア劇団が、発声=大きな声を出すことだと教えてくれます。
無理に大きな声を出し続けていると、最終的には喉を壊します。
演技についてもそうです。
声優の演技の根本は同じかもしれませんが、「声優の場合はこう、舞台の場合はこう」と教えられることはまずありません。
この2つのことから、もしどうしても舞台をやってみたいという人は、なるべく売れている劇団に入るようにしましょう。
プロ、ではないにしてもセミプロの演技指導を受けるためです。
俳優養成所に行こうと考えている場合も同じです。
ココがポイント
声優と俳優は似て非なるものということをしっかり覚えておきましょう。
まとめ
声優を志望しているみなさんが、舞台も両立したいと思う気持ちは、本当によくわかります。
どちらも演技をすることには変わりありませんし、舞台でしか味わえないライブの感覚は声優では得られないものです。
しかし、声優の演技と舞台の演技は似て非なるものです。
ココがポイント
まずは、生活できるだけの声優としての成功をおさめることが、舞台俳優としての第一歩かもしれないということを忘れないでください。